2021年 将軍と呼ばれる大黄(2021/1/6)
人参いろいろ(2021/1/12)
大黄のいろいろな働き(2021/1/18)
まじめな人が悩む健康病(2021/1/25)
オーラルフレイルとは(2021/2/1)
五行説(2021/2/8)
五行説・木タイプの性格&特徴(2021/2/15)
五行説・火タイプの性格&特徴(2021/2/22)
五行説・土タイプの性格&特徴(2021/3/1)
五行説・金タイプの性格&特徴(2021/3/8)
五行説・水タイプの性格&特徴(2021/3/15)
近頃の子供には便秘が多い(2021/3/22)
六神丸の秘密(2021/3/29)
コーヒーは眼圧にもよい(2021/4/5)
再び五行説(2021/4/12)
木(肝)タイプの養生(2021/4/19)
火(心)タイプの養生(2021/4/26)
土(脾)タイプの養生(2021/5/10)
金(肺)タイプの養生(2021/5/17)
水(腎)タイプの養生(2021/5/24)
生体恒常性とは(2021/5/31)
患者本人と話す(2021/6/7)
酒は「百薬の長」か(2021/6/14)
アナフィラキシーについて(2021/6/21)
余命宣告しないほうがいい(2021/6/28)
盲腸の漢方(2021/7/5)
治病求本(2021/7/12)
麗沢通気湯加辛夷(2021/7/19)
命の水(2021/7/26)
3つの漢方(2021/8/2)
熱中症と夏バテ(2021/8/11)
ワクチンに関するデマ(2021/8/18)
治りにくい嗅覚障害(2021/8/23)
味覚異常にも(2021/8/30)
冷房病に五積散(2021/9/6)
再び盲腸について(2021/9/13)
がんの10年生存率(2021/9/22)
冷や汗はなぜ出る?(2021/9/27)
肥満になると薄毛に?(2021/10/4)
カレーは薬膳料理(2021/10/11)
便(べん)は体からの便(たよ)り(2021/10/18)
消毒と滅菌(2021/10/25)
七味唐辛子は薬効ふりかけ(2021/11/1)
ブレークスルー感染とは(2021/11/8)
パンデミックと漢方(2021/11/15)
似たもの夫婦で互いに励ます(2021/11/22)
加味平胃散でおなかスッキリ(2021/11/29)
漢方の三大古典(2021/12/6)
黄帝内経について(2021/12/13)
神農本草経について(2021/12/20)
傷寒雑病論について(2021/12/27)

将軍と呼ばれる大黄(2021/1/6)
新年、あけましておめでとうございます。本年も漢方つれづれをよろしくお願いいたします。

昔、お正月といえば、一家団欒でお雑煮やおせち料理などの贅沢な料理をたらふく食べたものです。
しかし、現代でも一家団欒を除けばそれほど変わっていないように思います。
おせち料理は、正月の保存食でもありますが、タンパク質や脂肪、
コレステロールなどに富み、味も濃くて、美味しいため、つい食べ過ぎてしまうものです。
その上、お正月は仕事が休みで、体を動かすことも少なく、食べては寝、寝ては食べる不規則な生活になりがち。
これではおなかにとっていいわけがありません。

こんな時おなかをスッキリさせるのが大黄(だいおう)剤。
大黄は古くから世界中で用いられてきた下剤であり、その薬効が激しいため漢方の世界では「将軍」と呼ばれています。
大黄に甘草(かんぞう)と芒硝(ぼうしょう)を合わせると優秀な下剤になります。
将軍のお世話にならないよう、このお正月は食べすぎに気をつけたいものです。

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人参いろいろ(2021/1/12)
漢方生薬として使う人参にはいくつかの種類があり、

まず、大補(たいほ)元気に働く人参(にんじん:朝鮮人参ともいう)はオタネニンジン(御種人参)の根で、万病薬として有名です。
漢方に万病によい物などなく、人を元気にさせることからこのように考えられたのです。
本来は、気(エネルギー)を増やす補気薬(ほきやく)です。
気を増やすので、高血圧で赤ら顔の強壮な人には向いていません。

次に竹節人参(ちくせつにんじん)はトチバニンジンの根茎です。
古方の大家・吉益東洞(よしますとうどう)が小柴胡湯(しょうさいことう)の御種人参の代わりによく用いました。
心下痞硬(しんかひこう:みぞおちのあたりがつかえて硬い状態)によく、健胃(けんい)、解熱、去痰(きょたん)に働きます。

最後に田三七人参(でんさんしちにんじん)です。これも根です。
血の流れをよくして、瘀血(おけつ)や出血を改善します。

生活習慣病に欠かせない存在。これら3つの生薬はいずれもウコギ科の植物です。
ちなみにカレーに入れる野菜の人参はセリ科です。

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大黄のいろいろな働き(2021/1/18)
前回でご紹介した大黄(だいおう)は、おなかに溜まった大便を下すため、便秘に効果を発揮する薬草と考えがちです。
下すことは単に便秘を解消するものではなく、下すことにより疾病を治療するのが本来の目的です。
大黄は次のような目的に使用します。

①瀉下通便(しゃげつうべん):便秘を解消することで腹満(ふくまん)、膨満(ぼうまん)をとっておなかをスッキリさせる。
 大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)、大承気湯(だいじょうきとう)、麻子仁丸(ましにんがん)など。

②瀉下解毒(しゃげげどく):上焦(じょうしょう)部の熱や内臓の炎症を取る。
 のぼせ、血圧上昇時に三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)、
 胆嚢炎(たんのうえん)、胆石(たんせき)に大柴胡湯(だいさいことう)、
 下腹部の痛みや化膿に大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)など。

③活血化瘀(かっけつかお):月経異常や打撲などの改善。
 月経異常、精神障害などの時に桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、通導散(つうどうさん)、
 打撲・捻挫の時の治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)、通導散(つうどうさん)などです。

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まじめな人が悩む健康病(2021/1/25)
健康に気を付けるのはよくないことでしょうか?
甘いものやお酒を我慢するなど人生の楽しみを犠牲にしてまで健康であるべきでしょうか?
健康はもちろん大事ですが、人は誰しも、健康より大事なものを持っているのではないでしょうか。
健康ブームが過熱して、健康情報が氾濫する現代では、「健康のためなら死んでもいい」という
目的をはき違えた健康病が蔓延しているように思います。
まじめな人ほど過剰ともいえる健康志向に陥りがちです。
健康至上主義が是となると、お酒をやめる、次はタバコ、その次は砂糖と、いつまでもベストを目指し続けることになりかねません。

「人は健康のために生きるのではなく、生きるために健康であれ」と考え、新しい年を過ごしてみてはいかがでしょうか。

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オーラルフレイルとは(2021/2/1)
フレイルとは、健康な状態と要介護状態の中間に位置し、心身が衰えた状態を指し、オーラルフレイルとはその口腔版を意味します。
むせる、固い物が食べられない、滑舌が悪いといった口の機能低下です。
放置すると食が細くなって筋力が落ちたり、話しにくさから閉じこもりがちになったりするともいわれ、健康寿命も左右してしまうことになります。
65歳以上の高齢者を追跡調査した結果、オーラルフレイルのある人はない人より、
要介護になったり亡くなったりするリスクが2倍以上も高いという研究結果も出ているそうです。

口を大きく開けて「アー」などと発声したり、食べにくいからと、固い食材を避けないなど、口の機能低下が進まないように注意することです。
漢方では、甘露飲(かんろいん)などの処方がいいようです。

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五行説(2021/2/8)
漢方の理論に五行(ごぎょう)説というものがあります。
自然界の法則を説く東洋独自の哲学で、これに基づいて治療が行われます。
自然界のすべてのものを、木火土金水(もくかどこんすい)の5つの要素に分類したものです。
すべてのものがこのいずれかの特性を持ち、それぞれに相関関係があるとする考えです。

「木」は樹木が伸びやかに成長する生命力の強さや柔軟さを、
「火」は炎が持つ熱や上昇する勢いを、
「土」は土のどっしりとした豊かさや強さを、
「金」は鉱物や金属の持つ清涼な感じと清潔さを、
「水」はすべてを潤す水のような穏やかさと冷たさを象徴しているといわれます。

体質や性格も五行に基づいて分けられています。
五行診断や五行占いなどにも活用されています。

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五行説・木タイプの性格&特徴(2021/2/15)
正義感が強く、何事も前向きに取り組むタイプですが、肝に影響が出やすい木タイプは精神的ストレスが大の苦手。
肝が弱ると感情と理性のギャップに悩み、気持ちが沈んで憂鬱になったり、意欲がわかなかったり、決断できなくて迷ったりします。
逆に、機能が亢進すると、こうでなければならないという完全主義に陥り、何事も自分が一番と考え、人に任せられなかったり、
自分の考えにそぐわないことが目に付くと、イライラして怒りっぽくなります。
特に自律神経が不安定になる春は体調を崩しがちです。

健康な時は筋肉に張りがあり、爪が丈夫でつややかですが、不調が目や顔色に現れやすくなります。
ストレスに弱く、イライラしがちな方は木タイプです。

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五行説・火タイプの性格&特徴(2021/2/22)
がんばり屋の明るい性格で、周りに振り回されずマイペースな半面、気持ちの浮き沈みが激しい気分屋なところがあります。
これは心の影響を受けやすい火タイプの特性で、心が弱ると、勇気が持てず消極的になり、
不安で臆病になり、夢をよく見ます。
逆に機能が亢進すると、異常に興奮してはしゃぎ、落ち着きがなく、発作的な行動をとるようになります。
また、うれしいことがあると浮かれて夜眠れないのもこのタイプです。

新陳代謝のよい火タイプは太りにくい体質で、血行がよく、胃腸も丈夫で体力はあるものの、汗っかきで便秘気味です。
疲れると顔が赤くなり、舌の炎症や口内炎が出やすくなります。
暑さが苦手で、ほてりやすい方は火タイプです。

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五行説・土タイプの性格&特徴(2021/3/1)
じっくり考えてから行動を起こす慎重派。
おおらかで人望は厚いですが、思い悩んで行動できず優柔不断になることもあります。
脾(消化器のこと)が弱ると、クヨクヨ悩みあれこれ迷い、意欲がなくなってきます。
また、主体性がなく、一貫性もありません。
逆に、機能が亢進すると落ち着きがなく、移り気で、気が短くなり、パッパッと何事もせっかちに早く済ませようとします。
脾に影響が出やすい土タイプにとって、ストレスや暴飲暴食は胃もたれなど胃腸が不調となる原因に。
水分代謝も低下してむくみや下痢が起こります。

新陳代謝が悪く太りやすい土タイプは、湿気の多い梅雨が苦手。
疲れると顔が黄色くなって、体力不足に。
湿気が苦手で、むくみやすい方は土タイプです。

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五行説・金タイプの性格&特徴(2021/3/8)
温厚で何事にも冷静に対処する金タイプは、面倒見もよく人から頼られるタイプ。
その一方で悲しみに弱く、いつまでも気持ちを引きずる面があります。
肺に影響が出やすい金タイプは、肺が弱ると、感受性に乏しくなり、機転がきかず、運動能力や反射神経が鈍くなります。
注意力が散漫になり、うっかりミスがでます。
逆にその機能が亢進すると周囲が気になり、落ち着きがなく、先々のことを心配するようになります。
肺の不調は鼻やノドに現れやすくなります。
知人の死や失恋など大きなショックや疲労から、胸の痛みや息切れ、ノドの腫れや鼻づまりなどに悩まされます。

体格は中肉でおおむねバランスがよく、健康な時は色白で肌がきれいですが、
皮膚が敏感な金タイプにとって空気の乾燥する秋は苦手。
乾燥に弱く、肌荒れしやすい方は金タイプです。

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五行説・水タイプの性格&特徴(2021/3/15)
水タイプは、おっとりしていてやさしい性格の反面、恐がりで受け身なところもあります。
心身にストレスを受けると動作が鈍くなり、覇気のない人と見られがちです。
腎に影響が出やすい水タイプは、腎が弱ると、やり通そうとする信念がくずれ、根気・忍耐力がなくなります。
守りに入るため用心深く、警戒心も強まり、恐怖感を持ち、決断力が低下します。
ストレスや過労から腎の働きが鈍ると歯が弱くなったりする他、疲れやすい、手足の冷え、むくみ、腰痛、頻尿などに悩まされます。
顔色がくすみ、耳鳴りや難聴など耳に不調が現れます。

寒さに弱く、冷えやすい方は水タイプです。

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近頃の子供には便秘が多い(2021/3/22)
小学生4人に1人の割合で便秘の疑いがあるそうです。
昨年の11月、全国各地の小学生1万人を集めての調査で、排便の回数や硬さなどを10日間記録するチェックシートを配布。
結果10日間のうち2回以上、「コロコロ」「ごつごつ」の硬い便だった児童が24.6%にのぼりました。
男女別では女子が27.4%で男子(21.7%)よりも多かったそうです。

正常な排便とは、1日に食べた量が1日かけて出るという状態です。
たとえば、排便が2日に1回なら2日分、3日に1回なら3日分というように。
この状態から外れたら便秘を疑ってください。

こどもの便秘は大人と違って重症化しやすいものです。
便秘が続くとイライラして勉強に集中できなくなるとも言われています。
健やかな毎日を過ごすためにも、お子様だけでなく、家族みんなで排便チェックを習慣にしてみてはいかがでしょうか。

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六神丸の秘密(2021/3/29)
ゴオウ製剤の六神丸は強心薬として知られていますが、ここだけの話、変わった使い方をされる方もいます。
たとえば、虫歯が痛む時にそこに詰めて使う(センソには局所麻酔作用がある)、
宴会がある時に悪酔いしないように前もって飲んでおく(ゴオウ、ユウタンにはアルコール吸収を防ぐ働きがある)などです。

またその他にも、巷で有名なED治療薬の代用として重宝されている(センソには交感神経系を抑え、副交感神経系を興奮させる働きがある)ようです。
貴重な動物生薬を使った六神丸の秘密、いろいろあるものですね。

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コーヒーは眼圧にもよい(2021/4/5)
京大の研究チームがある健康データを分析したところ、コーヒーをよく飲む人(1日3回以上飲む)は、
あまり飲まない人(1回未満)に比べて、眼圧が低い(その差は眼圧の平均値の3%)ことがわかったそうです。
さらに、飲む回数が増えるにつれて、眼圧はだんだんと低くなる傾向があったとのことです。

眼圧は基本的に低い方が望ましく、特に緑内障の患者にはよくないことが多いと言われています。
今回の対象者は緑内障ではない約9000人であり、患者に直接使った臨床データではないため、因果関係ははっきりわかっていません。
その他にもコーヒーは運動前に飲めば脂肪燃焼を促進し、糖代謝を邪魔する内臓脂肪を減らすと言われ、血糖値も低下します。
よって糖尿病にもよいとの報告もあります。

とはいえ、コーヒーも飲みすぎるとカフェインの取り過ぎによる頭痛や胃痛、睡眠の質の低下など、様々な症状を引き起こすとも言われていますので、
何事もご自身の体質に合った取り入れ方が望ましいでしょう。

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再び五行説(2021/4/12)
前回、五行説を取り上げた折には、木火土金水タイプの性格や体質(罹りやすい病気)について述べました。
性格診断や心理分析にも使えると関心を示していただいた一方で、
タイプ別の生活養生(&食養生)や漢方処方についても教えて欲しいとのお声もいただきました。

五行説では、
五味(ごみ:酸、苦、甘、辛、鹹※)や
五色(ごしょく:青、赤、黄、白、黒)、
五気(ごき:風、暑、湿、乾、寒)など養生に当たる項目もあります。
紙面の都合であまり詳しく述べることはできませんが、次回よりそれらの項目について少し解説したいと思います。

五行説についてさらに詳しく知りたい方は、小太郎漢方製薬株式会社のホームページ(五行チェック)をご覧ください。
※鹹はカンと読み、塩辛いこと

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木(肝)タイプの養生(2021/4/19)
怒りや緊張は肝を傷めるもとです。
腹の立つことがあれば、まず深呼吸でもして心を落ち着けましょう。
慢性的な肝の疲れは、血液が再生されることで改善されます。
そのためには、たっぷり睡眠をとることです。
遅くても12時までには就寝するように心掛けてみましょう。

栄養面では、肝が弱い方は、血液を増やす食べ物がよいと考え、にんじん、パセリ、ほうれん草、
ブロッコリーなどの緑黄色野菜やレバー、しじみ、あさりなどを積極的に摂ってみてはいかがでしょう。
また、柑橘系の果物や酢などの酸味(五味)は、肝の働きを正常にし、体の疲れをとり、精神のいらだちを抑えると考えます。
さらに、肝の働きが整うことで、目の疲れを癒し、眠りを深くしてくれるでしょう。

木タイプの治療としては、加味逍遥散、柴胡疎肝湯、抑肝散加陳皮半夏などが合いそうです。

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火(心)タイプの養生(2021/4/26)
大声でよく笑う(喜ぶ)人は、心(しん)が損なわれると言われています。
笑ったり、喜んだりすることは良いことのように思いますが、何事も行き過ぎると良くないのですね。
散歩やストレッチなどの軽い運動は心を丈夫にする手助けになります。
また、入浴はぬるめのお湯で、下半身を中心に温めましょう。
熱いお湯は逆に心に負担をかけますので注意が必要です。
心が弱い方は、血管に負担をかけないよう気をつけながら、適度な運動で血流を増やすことを心掛けましょう。

栄養面では、血液をサラサラにする効果が高いものが多いと言われている赤い食べ物、
たとえば、トマト、にんじん、いちご、すいか、小豆など赤味のある食べ物を積極的に摂るようにしてみましょう。
また、味の濃いものや脂肪分が多い肉食は血液を汚すと考えますので気をつけましょう。
その他、心が弱く、のぼせやすい方は、熱を冷ます働きがあるとされる苦味(五味)のある飲食物(コーヒーやお茶など)を飲むようにしてみましょう。

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土(脾)タイプの養生(2021/5/10)
思い悩むことは、脾(胃腸)の活動を抑えてしまいます。
心配事を抱えたままの食事は、消化不良のもとです。
脾は感情の変化に敏感に反応するとされていますので、
考え込まず、少し開き直って、運動や読書、おしゃべりなどで気分転換をはかりましょう。

栄養面では、脾が弱い方は、適度に甘味(五味)があって、黄色い食べ物がよいと言われています。
かぼちゃ、さつまいも、とうろもこし、大豆、柿などを日々の食事で摂れるように工夫してみましょう。
また、脾の働きを高めるためには、胃腸に負担をかけぬよう、よく噛んで食べることも大切です。
その他、砂糖をはじめ黒糖やはちみつなどの甘味は体を滋養するだけでなく、
緊張を緩和して、痛みを取り除く働きがあると言われていますので、料理やデザートに上手く取り入れてみてください。

土タイプの治療としては、六君子湯、人参湯、帰脾湯などが合いそうです。

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金(肺)タイプの養生(2021/5/17)
悲しみや憂いは肺を傷めるもと。
悲しんでばかりいると肺はいつまでも丈夫になりません。
気分を変えるためにも、ゆったりと深呼吸してみましょう。
とくに朝の新鮮な空気を胸一杯とり入れることは、肺の強化につながります。
肺の強化と言えば、肺と関係の深い皮膚を刺激することは、血行がよくなり肺が鍛えられます。
最近は知らない方も多いでしょうが、乾布摩擦を思い浮かべるとイメージしやすいのではないでしょうか。
そして、乾燥の強い秋や冬はノドや肌が乾かないよう注意しましょう。

栄養面では、肺の弱いタイプは、唐辛子やネギ、にんにくなどの辛味(五味のひとつ)がよいといわれています。
これら香辛料などは、発汗を促し、皮膚の抵抗力を上げて、風邪などの感染症を予防する働きがあります。
また、大根、キャベツ、じゃがいも、玉ねぎ、白ゴマなど白っぽい食べ物には、肺を潤す効果があります。
毎日ひとつでも食事に取り入れる工夫をしてみましょう。

金タイプの治療としては、辛夷清肺湯、小青竜湯、麦門冬湯などがよいでしょう。

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水(腎)タイプの養生(2021/5/24)
驚きや恐れは腎を傷めるもと。
不安や恐れを感じることが増えているコロナ禍では、とくに気をつけたい臓器です。
腎が衰えている方は、同時に足腰も衰えています。
現代人は歩く機会が減り、足腰の老化が早まっていると言われますが、
さらに外出自粛や在宅ワークなどで、いままで以上に足腰に不安を感じる方は多いのではないでしょうか。
家で簡単にできる運動などで下半身の筋肉を鍛え、寒さに強い体づくりを心掛けるなど工夫しましょう。
そして、体の冷えは腎の大敵です。

栄養面では、腎の弱いタイプは、黒くてヌルヌルした食べ物がよいと言われています。
黒豆、黒ゴマ、ひじき、ごぼう、山芋、わかめ、昆布、ナマコ、イカ、タコ、牡蛎などを積極的に食事に取り入れるようにしましょう。
これらの食べ物は老化を予防し、長寿の薬にもなります。
また、梅干、塩昆布、塩豆などの鹹(塩辛い)味の食べ物は、腎によい五味のひとつで、物をやわらげる効果があり、
リンパの腫れや便秘などによいと言われています。
しかし、取り過ぎにはくれぐれも注意しましょう。

水タイプの治療としては、六味丸、八味地黄丸、牛車腎気丸などがよいでしょう。

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生体恒常性とは(2021/5/31)
漢方相談をしているとお客様から次のような質問をされることがあります。
先生に処方された利尿の漢方薬を飲んでいると、おっしっこが出過ぎて、脱水症になりませんか。
また、逆に肥満の方がダイエットの漢方薬を飲み、体重の減り方が鈍いため、倍量飲めば、もっと早くやせませんかなどです。
人には生体恒常性(ホメオスタシス)というものがあり、ある一定の状態(個々の標準値)までくれば、変化せず一定の状態を維持します。
したがって、脱水症にもなりませんし、急激にやせることもありません。
漢方でいう健康体というのは、余分なものがあれば取り除き、不足しているものがあれば補う、すなわち中庸を目指すことです。
筋肉虚弱な方がすぐに筋骨隆々になったり、肥満体型の方がいきなりモデルのようなスリムな体になったりするわけではないのです。

何よりも大切なのは、あなたの悩みに向き合い、証(体質)に合った漢方薬を見つけてくれるよいお店、よい先生に出会うことです。

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患者本人と話す(2021/6/7)
漢方相談をしていると、馴染のお客様からご自身のことではなく、お子さまの病気について、何かいい漢方薬がないかと相談されます。
そんな時、決まって親御さんから聞かされる情報は、病名だけの場合が多く、体質は親と一緒のことが多いから、簡単にわかるでしょうというもの。
さらに聞いても、外見的特徴くらい(体重や身長など)です。

その方の証(体質・症状)を知るためには、やはりご本人とお目にかかるか、最低限電話で話さなければなりません。
特に漢方では、この問診が大切なのです。
もっと大事なのは、ご本人が自分の病気をどのようにとらえているかです。
ご本人に治す意志がなければ、残念ですが周りがいくら一生懸命になっても成果が出ないものです。

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酒は「百薬の長」か(2021/6/14)
飲酒には寛容な日本社会。
「酒は百薬の長」で、適量のアルコールはむしろ体にいいという考えがあります。
しかし、アルコール摂取と寿命の関係については「百害あって一利なし」というデータがあります。
40歳時点でのアルコール摂取量と平均余命の関係は、1週間の純アルコール摂取量が100gまでのグループを標準とした時、
週100~200gをとるA群は6ヵ月の余命短縮、
週200~350gをとるB群は1~2年の余命短縮、
週350g以上をとるC群は4~5年の余命短縮となるそうです。

純アルコール重量(g)=お酒の量(ml)×度数(%/100)×0.8(エタノールの比重)です。
ちなみにビール1缶(5%で350ml)=14g、酎ハイ1缶(8%・500ml)=32g、日本酒1合(15%・180ml)=22gです。

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アナフィラキシーについて(2021/6/21)
複数の臓器で同時に重いアレルギー反応が起きるのがアナフィラキシーです。
アレルギーの多くは、原因物質が体に取り込まれた時に、皮膚に蕁麻疹が出たり、鼻の粘膜で鼻炎が起きたりするなど、
ある一カ所で症状が出て、通常は大事に至りません。

一方、アナフィラキシーは、皮膚や粘膜だけの症状にとどまらない。
腹痛や下痢、呼吸困難や血圧低下など、複数の臓器でアレルギー反応が同時に起きて、
臓器に充分酸素が供給されない状態になるため、命に関わることもあります。
原因物質は様々ですが、ワクチンもその一つ。
連日ニュースで報道されている新型コロナワクチンの接種後に起きる場合は、そのほとんどが30分以内に発症することが多いと考えられ、
アドレナリンなどの薬物を準備して、応急処置ができるよう臨んでいるそうです。

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余命宣告しないほうがいい(2021/6/28)
進行がんの患者から主治医に「あと、どれくらい生きられますか」と尋ねてきたとしても、伝えないほうがいいそうです。
かつて患者の強い希望で伝えた折、悟りきったような聖職者、度量のある社長や政治家などであっても、
具体的な余命期間を告げられると、がっくり肩を落とされ、ぼろぼろと涙を流されるそうです。
患者としては限られた余命を、悔いを残さず暮らしていくために、尋ねたい一心なのはわかりますが、
聞いた瞬間、死刑宣告をされたようになり、落胆するのだそうです。

しかし、そうかと思えば、余命3カ月といわれた末期がんの患者が、治療を止め、心穏やかに暮らしていたら、
3年間も永らえたという結果もあるそうです。
余命宣告なんて本当に当てにならないものです。

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盲腸の漢方(2021/7/5)
来の盲腸(もうちょう)は、小腸と大腸のつなぎ目にあたる腸のこと。
おなかが痛いときによく使われている“盲腸”ということば。
実は盲腸ではなく、盲腸からぶら下がっている虫垂(ちゅうすい)が炎症を起こした急性虫垂炎のことを指します。
虫垂に詰まったものが炎症を起こして化膿するのです。
痛みがヘソから右下腹部に移動し、発熱、食欲不振。
腰骨からヘソに向って3分の1のところ(マックバーネーの圧痛点)を押すと特に痛みます。
30年前は手術がほとんどでしたが、現在は、炎症が軽ければ抗生物質などで散らします。
手術でも、腹腔鏡手術であれば傷が小さくて目立ちません。

手術がなかった頃、漢方治療が主流だった時代では、実証に大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)、
虚証に腸癰湯(ちょうようとう)が使われました。
腸癰とは腸のできもの、すなわち虫垂炎や腸のポリープを指します。
最近では虫垂が腸内の健康を保つのに役立つ働きをしているのではないか、とも考えられるようになっています。

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治病求本(2021/7/12)
病を治するには必ず本を求むとする治病求本(ちびょうきゅうほん)という考え方が東洋医学にはあります。
病には、必ず症状(標:ひょう)とその症状をつくりだす本質(本:ほん。病の原因となるもの)があり、
症状だけ取れても、本質(または体質)まで改善しないと、病は治ったとはいえないとする考え方です。

たとえば、ウイルスによって起きるかぜ症候群という病を考えてみましょう。
かぜの症状としてつくりだされた、発熱、鼻炎、せき、たんなどの症状は、 解熱薬、抗ヒスタミン薬、鎮咳去痰薬などでよくなります(対症療法)が、これで本当に治ったのかと考えるのです。
再発しなければ治ったのでしょうが、再発すれば本質的な原因であるウイルスがまだ残っていたことになります。
この場合、かぜ症候群のウイルスに抵抗できない体の状態が本質ですから、体質を見直して改善していくことが大切なのです。

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麗沢通気湯加辛夷(2021/7/19)
今年度に入って、小太郎漢方は鼻炎の新処方を発売しました。
麗沢通気湯加辛夷(れいたくつうきとうかしんい)という変わった名前です。
「麗沢」の「麗」は並ぶ、連なるの意。
「麗沢」とは、2本(一対)の沢が並んで流れているさまで、友人同士が並んで互いに助け合い、励まし合って勉学に努めることと論じています。
これはちょうど、顔面部で左右に並んでいる鼻腔が、協力して呼吸器と嗅覚器の機能を担っていることと似ています。
通気は、閉塞(へいそく)・凝滞(ぎょうたい)している気滞(きたい)を強力に開通させる(鼻を通す)ことです。

鼻炎は花粉症や風邪のシーズンである春や冬と相場が決まっていますが、
本剤はどのシーズンのどんなタイプの鼻炎にも用いられ、特に嗅覚障害を得意としています。

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命の水(2021/7/26)
人の体を構成する成分の過半数は水分です。成人男性で約60%です。
オギャーと生まれてきた新生児で約80%あり、還暦を過ぎた高齢者では約50~55%と少なくなってしまいます。
水々しさは若さの証とも言えるでしょう。

歳を取ると水分が減り、体がカサカサに乾燥し、口や目が渇(乾)きます。
このような経験はありませんか。
このようなことが度々続くと老化が始まっていると考えられます。
また、暑熱(しょねつ:夏の暑さ ※熱邪:ねつじゃ)のために汗をかき、体が乾いて熱中症が多発します。
そんな時一番犠牲になりやすいのが高齢者です。
もともと水分が少ないため、脱水症を起こしていても気づきにくく、その手当てが間に合わず、亡くなってしまうケースもあります。
まさに命の水です。

日本気象協会では今年の夏も厳しい暑さが予想されると発表しています。
上手な水分補給で、熱中症に気をつけてお過ごしください。

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3つの漢方(2021/8/2)
熱中症に使う漢方薬をご存知ですか。代表的なものは3つあります。
生脈散(しょうみゃくさん)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、清暑益気湯(せいしょえっきとう)です。

生脈散は人参、麦門冬(ばくもんどう)、五味子(ごみし)の三味からなります。
人参で気力を益し、麦門冬で清熱し、五味子で収斂(しゅうれん)して汗を止めます。
人参は気を補い、汗で消耗した心機能を強める補気薬(ほきやく)です。
麦門冬は、体液を補い、血液粘度を下げ、五味子は汗とエネルギーの漏れを防ぎます。
麦門冬と五味子の両薬は、補陰薬(ほいんやく)として、体液の消耗を補います。

次に補中益気湯は夏に胃腸機能が衰えて、疲れだるさがとれない時に用いる補気剤(ほきざい)です。
ここへ生脈散を加えると清暑益気湯の方意になります。
動悸、息切れ、脈の結滞なら生脈散、体のだるさ、ほてり、のぼせなら清暑益気湯、
そして熱症状が伴わない、夏バテだけならば補中益気湯が向いています。

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熱中症と夏バテ(2021/8/11)
年々暑さが厳しくなる日本の夏。
この時期になると熱中症や夏バテという言葉がニュースから流れてきますが、どのような違いがあるのでしょうか。
熱中症は暑熱(しょねつ:夏の暑さ)に当たり、ノドの渇きがひどく、めまいがして、のぼせ、ほてり(陰虚(いんきょ)の症状)などの症状がでます。
暑気あたり、中暑(ちゅうしょ)、日射病などともいわれます。
夏バテは疲労倦怠、食欲不振、下痢など(脾虚(ひきょ)の症状)に、体が重い、小便不利(しょうべんふり:尿の量や回数が少ないこと)など
(湿邪(しつじゃ)の症状)が加わります。
注夏病(ちゅうかびょう)、夏ヤセなどともいわれます。

熱中症の方が夏バテより重症です。
最近では、環境省が「熱中症警戒アラート」を発し、気温や湿度、日差しの強さなどによる「暑さ指数(WBGT)」に基づいた
活動指針を出して予防を促してしています。
熱中症には、漢方の「飲む点滴」といわれる生脈散(しょうみゃくさん)をぜひお試しください。
また、水分補給には水よりも電解質が多い麦茶が適します。

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ワクチンに関するデマ(2021/8/18)
コロナワクチンの接種が進んでいますが、世間ではいろいろなデマが流布し、接種に躊躇されている方がおられます。
海外発のものが多いようですが、例えば次のようなデマです。

①ワクチン接種された実験用ネズミが2年で全て死んだ。
②ワクチン接種により不妊が起きる。
③卵巣にコロナワクチンの成分が大量に蓄積する。
④ワクチン接種で遺伝子が組み換えられる。
⑤治験が終わっていないので安全性が確立されていない。
⑥長期的な安全性がわからない。
⑦ADE(抗体依存性増強現象)が起きる。
などです。

⑥はデマというよりも、新薬であればありうることとも言えるでしょう。
⑦のADEとは、過去に獲得した抗体がウイルスの感染を増強してしまうことです。
誤った情報に惑わされず、情報を正しく収集して判断をしましょう。
厚生労働省のホームページに新型コロナワクチンに関するQ&Aをまとめたサイトがありますので、参考にしてみてください。
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/all/

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治りにくい嗅覚障害(2021/8/23)
においの感覚になんらかの異常が起こる現象を嗅覚障害といいます。
嗅覚は鼻の重要な働きであり、呼吸と並ぶ重要な機能です。
嗅覚障害が起きる最大の原因は、鼻の病気である副鼻腔炎(ちくのう症)です。
副鼻腔の炎症を改善することがその治療に直結します。
東洋医学では「肺気(はいき)は鼻に通じる」といいます。
鼻の病気があることは、肺の機能の衰えが考えられます。
「肺は魄(はく)を主る」といわれるように、肺の衰えは魄に影響を与えます。
魄は感覚器である五感(嗅覚、味覚、視覚、聴覚、触覚)を維持しています。
したがって、肺の異常は、嗅覚障害や味覚障害などの五感の異常としても現われます。
コロナに感染された方の半数近くに嗅覚異常などの症状があると言うニュースもありましたが、
東洋医学の考え方からすると、うなずけます。

麗沢通気湯加辛夷(れいたくつうきとうかしんい)は、嗅覚異常の効能がある漢方薬として知られており、
コロナ感染症の後遺症(味や臭いがわからない)にも期待できます。

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味覚異常にも(2021/8/30)
乳児の舌には約1万個もあるといわれる味蕾(みらい)。
歳と共に減少して、70歳を過ぎると成人の半数以下になります。
このように「味覚の衰え」は主に老化によるものとされていましたが、近頃では若者の間でも急増しています。
原因のひとつは、度を超えた激辛食品です。
刺激の強すぎる味は舌を麻痺させ、味覚障害を引き起こす危険性がありますので、ほどほどに摂取することを心がけましょう。
また、専門家の中には、亜鉛不足を指摘する方もいらっしゃいます。
亜鉛を多く含む食品として知られている魚介類の牡蛎、ホタテ、牛肉の肩ロースやレバー、卵、納豆、カーシュナッツ、アーモンドなどのナッツ類。
これらの食品をしっかり摂って、ケアするのも良いでしょう。

漢方では、前回取り上げた麗沢通気湯加辛夷(れいたくつうきとうかしんい)や
口腔内をきれいにする甘露飲(かんろいん)などがいいようです。

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冷房病に五積散(2021/9/6)
夏、少し動いただけでも汗をよくかき疲れやすい方には、どちらかというと水太りタイプの女性が多いようです。
このタイプの方はからだの中に水をためやすいため、なかなかからだが温まりません。
暑い夏だからといって、冷房がきいた部屋に長時間いたり、冷たい飲食物ばかり摂っていたりすると、
中からも外からもからだを冷やすことになり、冷房病などで体調を崩します。

こんな時には五積散(ごしゃくさん)がお勧めです。
五積散は体を芯から温めてくれて冷房病を吹き飛ばしてくれます。
同じ方意に防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)がありますが、上記のようなタイプの場合は冷えをあおってしまいます。
どちらも表裏双解剤(ひょうりそうかいざい:一度に表証も裏証も治す処方)で、どちらも解表剤ですが、
五積散は裏を補って温める虚証の漢方で、逆に防風通聖散は裏を攻撃し余分なものを排泄する実証の漢方です。

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再び盲腸について(2021/9/13)
以前は盲腸(虫垂炎)を起こしていない虫垂でも、開腹手術の機会があれば、切除してしまおうというケースがありました。
虫垂は進化の過程で機能の失われたムダな臓器と思われていたのです。

虫垂炎を手術して取った人は、手術しない人に比べて、その後1年半~3年半の間、
2.1倍ほど大腸がんになりやすいとの報告があります(そのリスクが上がったのは、手術後3年半までで、その後はこの差はなくなる)。
最近の研究では、虫垂には、たくさんの免疫細胞が住んでおり、
「腸内フローラ」がよい状態に保たれるように働いていることがわかってきているそうです。
この環境が悪くなると、潰瘍性大腸炎やクローン病の炎症性腸疾患(IBD)が起きやすくなります。
それには虫垂炎の漢方である腸癰湯(ちょうようとう)が役立っているようです。

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がんの10年生存率(2021/9/22)
日本人の約半数が一生に一度はがんを患うとされています。
2008年にがんと診断された24万人のその後を追いかけた調査がまとめられました。
がんは種類や進行度合いによって生存率がかなり違うそうです。
例えば、前立腺がんや乳がんは高く、小細胞肺がんや膵臓がんでは低い数字だそうです。
また、がんは進行する病気でもあり、早期発見が大切です。
例えば、胃がんでは、ステージ1で見つければ、生存率9割と高く、ステージ4だと6.7%と一挙に低くなります。

がんは今や不治の病ではなくなりました。
ここ数年で、がん細胞を狙いうちする「分子標的薬」や、
体内で異物を取り除く免疫の力を利用した「免疫チェックポイント阻害剤」など、治療の技術はどんどん進んでいます。

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冷や汗はなぜ出る?(2021/9/27)
汗には大きく分けて2つあります。
暑い時にかく汗と、緊張したり不安になったりした時にかく汗です。
前者は温熱性発汗といい、上昇した体温を下げるためにかく汗です。
全身に汗をかいて体を冷やすのは、人間と馬くらいなものです。
後者は精神性(緊張性)発汗といい、驚きや緊張の刺激が脳に伝わった結果起こります。
ドキドキ、ハラハラした時に「手に汗をにぎる」感じです。
緊張やストレスが脳の視床下部に伝わり、汗をかくものです。
体は暑くはない(逆に冷たく感じる)のに汗をかくので、冷や汗ともいいます。
ちなみに手のひらや足のうらは緊張した時に汗をかき、気温が暑い時にはかきません。

冷や汗には一貫堂の荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)が適しています。

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肥満になると薄毛に?(2021/10/4)
毛は皮膚の中にある毛包幹細胞が変化することでつくられます。
しかし、加齢によって、毛包幹細胞は毛ではなく表皮に変化することが多くなり、薄毛になることがわかっています。

脂肪の多い食事をとり過ぎて肥満になると、薄毛になる可能性があるというマウスによる研究成果をこのほど東京医科歯科大などのチームが発表しました。
脂肪の多いえさを6ヵ月与えたマウスと、普通のえさを同期間与えたマウスの皮膚の組織を比べると、
脂肪の多いえさのマウスでは毛包幹細胞が表皮などに変化し、毛をつくる場所は萎縮していました。
詳しく解析すると、毛包幹細胞に脂質がたまることで、
この細胞が毛に変化するように促す伝達経路が活性化しなくなることがわかりました。

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カレーは薬膳料理(2021/10/11)
食欲の秋。好き嫌いの多い子供でも、カレーライスは好きな料理のひとつです。
カレーはインド料理ですが、今や日本人が最も好きな食べ物といっても過言ではありません。
本場インドでは平均10数種類のスパイスを使って、それぞれ家庭の味を出しています。
日本で市販されているカレー粉では30種類ものスパイスがブレンドされているそうです。
まるで漢方薬のようです。

スパイス=香辛料。
香辛料の多くは辛温解表薬(しんおんげひょうやく:体を温めて発汗させる)として重宝されています。
世界の3大スパイスと言われるペッパー(胡椒:こしょう)、シナモン(桂皮:けいひ)、クローブ(丁子:ちょうじ)のほか、
ターメリック(鬱金:うこん)、チリ(唐辛子:とうがらし)、スターアニス(八角:はっかく)、
フェンネル(茴香:ういきょう)、コリアンダー(香菜:こうさい)など漢方でも馴染みのある生薬が使われています。

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便(べん)は体からの便(たよ)り(2021/10/18)
日本人の便の大きさは先進国の中でも一番。
健康な大人で1日約150~200gと、大きめのバナナ1本分のサイズにあたり、欧米人の約2倍もあります。
これは食生活と大きく関係しています。
日本人は肉食中心の欧米人とは違い、米などの穀物やイモ類などの繊維質に富むものをよく食べるからで、
繊維質は消化されにくく、ほとんどが便として排出されるためです。

便は毎日の健康状態を知らせてくれます。
健康な良い便は便の切れもよく、お尻を拭かなくてもいいぐらいで、色は黄褐色。
それが黒褐色だと、肉・卵などの動物性タンパク質を摂り過ぎている傾向。
暗黒色だと、胃・十二指腸や大腸から出血しているケースも考えられます。
さらに、灰色っぽい時は、胆石や膵臓の病気の疑いがあるので、注意が必要です。
体からの便りを大事にしたいものです。

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消毒と滅菌(2021/10/25)
コロナ禍の中、日常生活でアルコール消毒をする機会が増えました。
菌には細胞膜という殻が、ウイルスには体の表面を覆う油の膜(エンベロープ)があり、アルコールはそれを壊すことで効果を発揮します。
ですが破傷風(はしょうふう)菌やボツリヌス菌のようにアルコールでは壊せない硬い殻を持つ菌や膜を持たないウイルスもあり、
すべての菌やウイルスを殺せるわけではありません。

新型コロナウイルスにはこの膜があるのでアルコール消毒は効果的ですが、
食中毒を起こすノロウイルスは膜をもたないので効きが弱いのです。

ちなみに、すべて殺してしまうのは、滅菌といいます。

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七味唐辛子は薬効ふりかけ(2021/11/1)
唐辛子(とうがらし)の激烈な辛さをマイルドにするために日本で考案されたのが七味唐辛子です。
唐辛子はもともと中南米のインディオが薬用として使用していたものを、
あのコロンブスが持ち帰り世界に広めたと言われています。

七味というのは唐辛子、ごま、けしの実、青のり、麻の実、陳皮(ちんぴ)、山椒(さんしょう)、
シソ、生姜(しょうが)などの中から七種類を選んでブレンドしたことからこの名前があります。
唐辛子の辛味成分と一緒に薬効成分も閉じ込めた価値ある商品です。
関東では唐辛子の割合が多く「七色とうがらし」と呼ばれ、関西では山椒など香りの強いものが好まれ、
「七味とうがらし」と呼ばれ親しまれています。
また他にも、濃い口(関東)と薄口(関西)など、つゆの濃さでも微妙な違いがあります。

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ブレークスルー感染とは(2021/11/8)
新型コロナワクチンを2回接種して、抗体ができたと安心していたら、しばらくしてまた感染したという話を時々聞きます。
これがいわゆるブレークスルー感染です。
一度かかると二度とかからない麻疹(はしか)や水痘(水ぼうそう)などと違って、
変異した強い株(δ)で再感染するのがインフルエンザや新型コロナなどです。

麻疹などはウイルスが鼻やノドから侵入して、血液の流れに乗って全身に広がり発症するまでに10日~2週間の潜伏期があるのに対し、
新型コロナなどは鼻やノドの粘膜で増えて数日で発症します。
新型コロナワクチンを2回接種したからといって油断せず、引き続き感染予防対策をしっかり行うようにしましょう。

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パンデミックと漢方(2021/11/15)
毎日の感染者数が落ち着いてきたとはいえ、いまだ警戒が必要な新型コロナウイルスですが、
同じようにパンデミック(感染症の世界的大流行)とされているのが1918-1920年にかけて世界中で猛威を振るったスペイン風邪です。
スペイン風邪とよく言われますが、実際にはウイルスが原因のインフルエンザ(流行性感冒)です。
このスペイン風邪が日本で流行した時、柴葛解肌湯(さいかつげきとう)という漢方処方が多くの人の命を救ったことはご存知でしょうか。
この柴葛解肌湯は浅田宗伯(あさだそうはく:浅田飴の基となる処方を考案した漢方の大家)が考案したもので、
流行性感冒などの急性疾患(咳や痰などの呼吸器症状を呈す初期から急激に悪化するような場合)に使用する漢方処方です。

人の歴史はウイルスとの戦いでもあると言われますが、いつの時代も最後は人の叡智が人々の命を救うということでしょうか。
このお薬は当店でも取り扱っております。
これからの季節の備えとして、ご用意いただいておくと安心です。

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似たもの夫婦で互いに励ます(2021/11/22)
11月22日は「いい夫婦の日」だそうです。
夫婦というのは長く連れ添っていると趣味や性格がだんだん似てくるものですが、
イギリスにおける夫婦に関する興味深い報告に「夫婦というものは、かかる病気まで似ている」というものがあるそうです。
たとえば、胃潰瘍では約2倍、高脂血症は約1.4倍の割合で、片方だけよりも夫婦2人が揃って患う可能性が高いそうです。
長く一緒に暮らすということは、寝食を共にすることで、自ずと体質が似てくるのでしょう。

女性の50代に多い更年期障害が最近男性にも増えているそうです。
更年期障害は主にホルモンバランスの乱れによるものです。
不幸にも夫婦で発症すれば、共に散歩や体操などして、お互いを気遣いながら生きていくことが早い解消につながることでしょう。
更年期障害を改善する漢方薬も数多くありますので、ぜひご一緒に当店へご来店ください。

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加味平胃散でおなかスッキリ(2021/11/29)
食べ物が美味しくなる食欲の秋です。
コロナ禍、外食することが難しくなりました。
そのストレスもあってか、家庭でついつい食べ過ぎてしまうという話も聞きます。

漢方には、消化吸収を高め、胃腸の働きをよくする処方がたくさんありますが、その代表的なものは平胃散(へいいさん)です。
食べ物や飲み物で一杯になった胃袋を平らかにするという方意から平胃散と名付けられたいわゆる消化促進剤です。
この平胃散に焦三仙(しょうさんせん)といわれる発酵性生薬(神菊:しんきく、麦芽:ばくが、山楂子:さんざし)を混ぜると、
さらに効果を発揮します。
神麹と麦芽で穀物や芋類に多い炭水化物の、山楂子で肉類や脂肪分の多い食べ物の消化を助けます。
平胃散に焦三仙を加えたものがスーパー平胃散である加味平胃散(かみへいいさん)なのです。

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漢方の三大古典(2021/12/6)
前漢~後漢時代にかけて、中国では、漢方医学の基礎とされている三大古典の
『黄帝内経(こうていだいけい)』
『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』
『傷寒雑病論(しょうかんざつびょうろん)』が成立しました。
それぞれ漢方の医学理論(陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)など)、薬物学(各生薬の働き)、治療学(処方の使い方)の書物です。
2000年ほど前に書かれたもので、今もこの3つを基にして漢方を勉強する専門家が大勢いらっしゃいます。

漢の時代には文化の華が開き、医学の基礎が確立しました。
現代主流になった西洋医学は、江戸時代に西洋(オランダ)から持ち込まれたもので蘭方と称するのに対し、
中国から来た伝統医学を日本では漢方(本場中国では中医学)と呼びました。

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黄帝内経について(2021/12/13)
前回でもご紹介した『黄帝内経(こうていだいけい)』とは漢方における最古の医学書ともいわれ、
漢方の医学理論および鍼灸療法を確立した書物です。
主に医学理論について述べた『素問(そもん)』と、鍼灸について述べた『霊枢(れいすう)』に分かれています。
人体の生理から病理、診断、治療、養生、予防などについて網羅されています。
鍼灸師さんが専門に勉強する書物にもなっています。

ただし、薬物療法(漢方薬)に関する記述はほとんどありません。
書名にある「黄帝」は、三皇(黄帝(女媧(じょか)とする説もある)、神農(しんのう)、
伏羲(ふき。ふくぎ、ふっきとも))と呼ばれる中国の伝説上の王の一人です。
黄帝内経の内容は黄帝と岐伯(ぎはく:黄帝の家臣である名医)の問答形式になっています。
ちなみに、健康ドリンクにある「〇〇黄帝液」の名前は、この黄帝に由来しています。

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神農本草経について(2021/12/20)
神農本草経(しんのうほんぞうきょう)は漢方医学最古の薬物書です。
神農は人々に医療や農耕を教えた伝説上の王で、医薬の神様です。
この書物には、365種の生薬について、その効能・産地・性質(四気五味:しきごみ)などについて記載されています。
この書物の特徴は、生薬を3つのグループに分けている点です。

上薬(じょうやく):無毒で長期服用してもよい、不老長寿につながる薬。
中薬(ちゅうやく):使い方次第で毒にも薬にもなるので、気を付けて用いる薬。
下薬(げやく)  :有毒なものが多いので、長期間使ってはいけない、病気を治すためにやむを得ず用いる薬。

これは良い薬、悪い薬といった良し悪しを意味するものではなく、薬の性質による分類です。
漢方には「未病(みびょう)を治す」という考え方があります。
すなわち、「体の小さな変調に気を配り、それを調えることで病気にならないようにする」という考え方です。
病気になってから治すより、ならないように予防することが上位とされていたのでしょう。

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傷寒雑病論について(2021/12/27)
傷寒雑病論(しょうかんざつびょうろん)は、漢方医学における最古の治療書(治療マニュアル)です。
傷寒雑病論は後に急性疾患に関する記述をまとめた『傷寒論(しょうかんろん)』と
慢性疾患(雑病)に関する記述をまとめた『金匱要略(きんきようりゃく)』に分かれたとされています。
この書物の著者は張仲景(ちょうちゅうけい)という長沙(ちょうさ)という街の太守(たいしゅ:今でいうと知事や市長のような役職)でした。
張仲景がこの書物を著したきっかけは、10年足らずの間に、200人余りいた彼の一族の3分の2が死亡し、
しかもその7割が「傷寒」といわれる急性熱性疾患(インフルエンザのような感染症)でした。
多くの身内を亡くした辛い思いから一念発起してつくったものです。

前回でご紹介した神農本草経(しんのうほんぞうきょう)では単味の生薬を、
傷寒雑病論では生薬の集まりである処方を解説しています。

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